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露出の秋 ある麗らかな日の午後。柔らかい日が差し、金木犀の香る、空高い秋晴れの日。そんな散歩にはうってつけの日のこと。ほとんど人が通らない川沿いの一画を、一人の女性が歩いている。 どことなくそわそわと辺りを見渡し、風邪でも引いているかのようにその顔は赤い。まだ時期的には早いロングコートを羽織り、首をマフラーで覆い、大きなハットを目深に被っている。上半身は肌の露出が少ない。その割に、下半身はコートの裾を除いて素肌を晒しており、非常にアンバランスな状態になっている。そんな格好で出歩く女性は、萩だった。 「誰もいないね……。前に調べた通りだね」 人がいないことを確認するために、わざと声を出して確認する。車道から少し離れ奥まった土手は、コンクリートで補強されておらず、なだらかに土を盛り固めただけの簡素なものだ。雨の日はとても通れたものではないだろう。川自体も用水路のような狭いもので、ろくに魚がいないのか釣りをする人もいない。また、落ち葉の積もり具合からして、ある程度の人の通行はあるものの、一日に数えるほどといったところだろうか。 土手沿いに歩いていくと、しばらくは雑木林に覆い隠されるが、それ以降は畑が広がる。一気に視界が開けるため、遠くからでも視認できてしまうだろう。タイミングが悪ければ、見られてしまうかもしれない。そのことを考えただけで、萩はぞくぞくと体が震える。吐息に熱がこもる。 「はあ、はあ……じゃあ、行きますか」 そのまま、するりとマフラーとコートを外す。その下には何も身につけておらず、帽子と靴だけの状態となる。彼女の顔が赤かったのは、そして辺りをしきりに気にしていたのは、このせいだ。萩は裸体を晒すと、マフラーをコートでくるんでその場に置いて、歩いていく。これで何も身を守るものはない。誰かに見られたら、一体どうなってしまうだろうか。萩はそう考えると、恥ずかしさと怖さ、そして得も言われぬスリルに頭がぼーっとするのを自覚した。 いつもの相方やよく会うユーザーには彼女自身の性癖を暴露しているが、それ以外では当然、普通の常識を持った人として暮らしている。もし、今この状況で誰かに見つかった後、警察にでも突き出されたら、社会的に破滅してしまうだろう。あるいは、もっと酷い目に会うかもしれない。その後戻りの出来ないリスクが、たまらなく萩を興奮させていた。 歩き出した直後、秋風が体に吹き付ける。ダイレクトに敏感な部分をなぞる風に、体が思わず反応してしまう。 「あはぁ、すごく来るね……ぞくぞくしちゃう」 萩はわざと大きな声で独り言を言う。こうして声を出すと見つかってしまうような気がして、それがたまらないのだ。 ゆっくりと、落ち葉を踏みしめて、先を目指す。今回ゴールに設定したのは、土手沿いに歩いておよそ10分ほどの場所。近所で人気が少ない場所を慎重に調査して決めた。相方やユーザーに相談したら反対されるのはわかりきっているので、今日のチャレンジについては誰にも言っていない。 木漏れ日も、水面に反射する光も、今の彼女の目には届いていない。そこに誰もいないか、必死できょろきょろと確認している。萩は考える。もしも誰かがいたら、どうしよう。きっと、どうにも出来ないんだろう。見つかったら一巻の終わりだ。 再度風が吹き付けて、敏感な部分をなぞる。すっかり湿ってしまったそこは、冷たい感触を伝えてくる。体が冷えてしまう一方で、その内側はとめどなく熱が溢れ、それが漏れでてしまう。 高揚感に導かれ、紅葉する木々の下を歩き抜けると、畑が広がり一気に視界が広がる。休耕地なのか、何かが栽培されている様子はなく、雑草がある程度茂っている。その先には、アスファルト舗装された道路がある。今の時間はほとんど車の通りはないが、朝夕にはそれなりに車が通る、いわゆる裏道にあたる道路だ。どこにも人の気配はなく、とても静かだ。 萩は近くの木から覗きこむように首だけ出して、車が来ていないことを確認すると、足を進める。体を隠してくれた雑木林は過ぎ去り、遠くからでも裸の萩の姿は見えてしまうだろう。太陽の光が体にまんべんなく降り注ぐ。温かい陽光とは裏腹に、もう体を守ってくれるものはないのだと不安に思い始めた。それと同時に、ぞくぞくと体の熱が高まっていく。そのまま、熱に浮かされたように、ふらふらと歩いて先へ進む。 そんな萩の耳に、聞き慣れた音が微かに聞こえる。車のエンジン音だ。夢見心地だった萩の意識が一気に引き戻される。 「うそ、うそだよね。この時間帯、車なんてっ」 しかし、その視線の先をくたびれた白い軽自動車が走っていく。 「あ、ああ、これ、見られて、見られてる……」 実際には見ていたかどうかは定かではない。そもそも、車で通りがかって裸に見える女性がいても、今の時代わざわざ確認しに戻りはしないだろう。だが恐慌した萩にそんなことは思い浮かばず、確認に戻ってくるような気がして、思わず走りだしていた。 走るたびに敏感な部分が擦れ、萩を恐怖や羞恥と同時に快感が襲う。息が切れて木陰に隠れて立ち止まった頃には、体もすっかり出来上がってしまっていた。走ったことによる心拍の上昇が、性的な興奮とリンクしてしまい、力が抜けて木によりかかってしまう。背中に感じるざらっとした樹木の感触は、痛みと同時に、これが夢ではない現実であるのだと萩の頭に理解させた。人としてしてはいけないを今まさに実行している。そう考えると、息が整っていくのに反し、体の疼きはどんどん強まっていった。 萩はゆっくりと、自分の秘部に手を伸ばす。もはや言い逃れ出来ないほど湿っている。指で敏感な部分に触れると、痺れるような、電流としか言いようのないものが体を駆け巡る。強烈な感触にびくんと体を跳ねさせた後、今度はゆっくりと自分自身を刺激する。抗い切れない強い快感が体を焼く。繰り返し繰り返し、自身を慰めることに没頭していく。そしてだんだんと快楽が羞恥や恐怖を上書きしていく。もう、何も考えられない。 「ああ、外でするの気持ちいいっ……あっ、はっ、もっと、もっと! 見て! 誰か私を見てぇ!」 快楽が極まるにつれ、萩は叫んでいた。見られないような場所を選んでいるが、いつか誰かに見られてしまうことを望んでいるのだろう。それが破滅に繋がるからこそ、自己破壊のような倒錯的で圧倒的な快楽となるのかもしれない。 木にもたれかかり、気をやってしまった萩は、冷えていく体の感触で我に変える。そろそろ、戻らないといけない。夕方になれば、犬の散歩などで出歩く人が増える。 帰りはルートを変更しよう。遠回りして、民家の近くを通り、コートを取りに戻る。その時、自分がどうなってしまうのか、萩はたまらなく期待して、興奮していた。 |