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公園とコートと月と私 「フミちゃーん」 インターホンで呼びかけてから中へ。 勝手知ったる他人の家、居間には、 「あれ、フミちゃんだけ?」 「おうユーザ、ルイスは愛好会の旅行?とかで……二、三日いないぞ」 ちゃぶ台に肘をついて暇そう……いや寂しそう? でも私が着たから少し嬉しそうにも見える。 「そっかー。じゃあフミちゃん一人なんだしばらく?」 「ルイスが飯は作りおきしてくれたから楽は楽だけどな」 ふーん、と向かいに……座ろうとして横に座る。くっついて。 「な、なんでくっつくんだよ……」 照れるフミちゃんにニヤつきが抑えられないけど、そこはガマンして、 「私とフミちゃんの間じゃない♪」 なんて言ってみる。 「そりゃまあ、その」 ごにょごにょ言う所も本当に可愛い。 「ルイスさんいないと不安だねー……」 「そんなことねえし。暑苦しくなくてせいせいするぜ」 顔を逸らして言うものの、目が泳いでるんだよね。 「よし、じゃあ今日私泊まっていっていい?」 「へ?」 「フミちゃんとお泊りしてみたかったんだよね」 じー、と見つめて微笑んでみたり。 「……しょ、しょうがねえな。ユーザがどうしてもって言うんなら……」 ちょっと強引だけど、フミちゃんは押しに弱いというか、ルイスさんいなくて寂しいんだろうなっていうか。 私も女子トークに憧れてたし、まあいいかなーって。 「えへへ、ありがとうフミちゃん」 赤い顔でそっぽ向いちゃったけど、嫌がって離れたりしないところ本当に好きだなあ。 ジュースも買ってきたから、と冷蔵庫を借りて色々詰めこみ詰め込み。 「ユーザが寝れるように部屋かたずけっかな」 「ごめんねー」 いーのいーの、とフミちゃんが部屋へ入っていく。どんなお話しようかなー? 「「かんぱーい!」」 そんなこんなで夜も更け、ルイスさんの料理に舌鼓を打ち。 「お風呂おっきいんだねえ」 「あれもルイスが広い風呂がいいって言うからさあ」 フミちゃんの部屋(とても片付いていた)にちゃぶ台を置いて、お菓子と缶ジュースを開けて。 学校の話をしたり聞いたり、他愛もない世間話をして。 私が持ってきていた雑誌で服や小物を見て感想を言い合っていたその時。 「にゃんか暑いろ」 「……え?」 「暑いろー」 「フミちゃん?」 「んぁー」 ろれつがおかしい、ような……? 「そーいえばユーザ、これぇ」 そういって様子のおかしいフミちゃんが差し出してきたのは、 「ぶっほ」 「ろうひらー?」 持ってきた雑誌のいわゆる、少し(最近じゃ少しどころではない)エッチな特集記事。 『彼氏の気を引こう! 大胆な露出』 「……これがどうしたの?」 努めて冷静に返事をする。 「ユーザはこういうの好きぃ?」 またすごいことを聞いてきますねフミさん。 どうしたんですか急に。 「ろうなんらー!」 「エッチかなーとは……」 「すきかきらいか!」 さっきから口をつけている缶を一気に呷り、好みを聞いてくる……何かおかしい、と思ってその缶を見ると、缶チューハイアルコール3%の文字。 え、3%で酔ったのまさか……!? 「ろっち!」 「好きですハイ!」 反射的に答えてしまった。 まあ確かに嫌いではない、んだけど。二次元とかで見る分には。 「……じゃあ、しよ」 する、って何を。 疑問に思っていると、目の前で服を脱ぎ始めるフミちゃん。 あっというまに下着姿になり、さらにためらう事無く下着までも脱いでしまった……。 「えーとぉ……」 じろじろと雑誌を見て、ごそごそと衣装棚から秋物らしきコートを取り出すとそのまま羽織る。そして、 「行くろぉ?」 「行くって……?」 「外に決まってんらろぉ!」 えーと……その格好で? 私は? 「ひがえてはやふぅ!」 ……だめだ、今のフミちゃんには勝てそうに無い。しかたなく言われたとおりに着替え……恥ずかしい……。 フミちゃんと同じように、下着まで脱いでコートを羽織る。長めのコート着てきてよかった。 ええい、こんなの私も飲まなきゃやってらんない! フミちゃんの飲みかけの缶を手にとって一気に飲む。炭酸の喉越しとほんの少しのアルコールの感覚を味わい、外出用の準備は完了。 それを見るなり手を握られ、裸コートのフミちゃんに引っ張られるままに部屋から出る。 かろうじてさっきの雑誌をつかんで来たので、何処へ行くかは知らないけど道すがら読めばなんとか……。 『大好きな恋人にリードしてもらって自分を曝け出そう』 ……頭痛くなってきたのはアルコールのせいじゃない、と思いたい。 「…………」 玄関まできて、フミちゃんは私の言葉を待っているらしい。 このまま部屋に戻ろう、と言って済む雰囲気ではないのは確かだし……。 ちょっと近所の公園まで行って帰ってくるだけでいいか。 「じゃあ、行こう、か?」 こく、と頷くフミちゃんの横に並び、手を握って公園への道を歩き出す。 もう片方の手が所在なさげにコートのポケットから出たり入れたりを繰り返し、繋いでいる手はじっとりと汗ばんで。 もう深夜近くで人影もまったくないとはいえ、やはり緊張しているのだろうか? などと考え事をしていたら少し通り過ぎてしまったらしく、フミちゃんに控えめに手を引っ張られた。 「ああ、ごめんごめん」 入り口から少し離れた所にあるベンチに並んで座り、手をほどく。 「はー……」 アルコールで火照った顔に夜風が気持ちいい。 「な、なぁ」 横に座ったフミちゃんが話しかけてくる。ろれつも回るようになってきたから落ち着いたのかな? 「暑いよな?」 「あついねー。歩いたせいかなー?」 まさかアルコールを飲ませたなんて言う訳にもいかず、適当に話を合わせる。 「じゃあしかたねえよな、うん」 気がつけばろれつも回ってる気がするし、正気に戻ったんだろうか。今ならまあ、まだ誤魔化せる筈。 そう思っていた私は甘かったのだ。 「なあ、どう、かな?」 問われて横を見れば、立ち上がったフミちゃんがコートを脱いでいた。 「…………」 薄雲のかかった月の下、フミちゃんの肌が夜の空気に晒される。 すらりと伸びた手足、かといって痩せすぎというわけでもない、程良く締まった体。 まだ成長することを考えれば普通の胸、くびれた腰に――うっすらと毛の生えた秘部。 家族以外に見せたこともないであろう全裸が、夜の公園で惜しげもなく。 「――綺麗」 素直な感想が口を衝いて出た。 「……ありがと」 染めた頬は羞恥か、それとも。 「もう、いいよね? 帰ろ?」 満足だろう、と思って帰宅を提案し、フミちゃんが頷く。 どうせならと私もベンチから立ち上がり、コートを脱いで。自分の頬が赤くなる幻聴を聞き、熱の火照りを感じつつ手を差し伸べる。 フミちゃんはコートを手に持ち、そのまま手を繋いで。 裸で、コートを手に持った女の子二人、そのままゆっくり家へと歩き出す。 コースは最短、けれど時間をかけて。 それで許してもらおう。 「ただいま……と、ユーザ。遊びに来てくれていたのか」 後日、ルイスさんが帰ってきた。 「こんにちはルイスさん」 「お、おかえり……ふあっくしょん!」 冷えピタにマスク、どてらを装備したフミちゃんも出迎える。 「なんだフミ、風邪か」 豪快にくしゃみをしつつ、だるそうに頷いて返事にするフミちゃん。 「もしかして看病してくれていたのか? すまないなユーザ……まったく、あれほど普段から手洗いとうがいと運動をしろと」 「ま、まあまあ。風邪が治ってからにしてあげようルイスさん。私もとりあえずおかゆとか用意はしてたんだけど」 作れないからレトルトで、と小声。料理とかからっきしだし……。 「食欲は……あるのか。よし待っていろ、すぐに美味くて精のつくものを出してやろう!」 そのまま台所へと向かうルイスさんを見送り、フミちゃんがこちらを向く。 「っかし、アタシなんで風邪引いたんだろうなあ……ちゃんと布団被って寝てたはずなのに」 「な、なんでだろーねー……」 あの夜のことは一生の秘密にしよう……うん。 |